022051 ランダム
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大佐の異常な日常

大佐の異常な日常

無題 3

「それで、これからどうするんです?」

麻義は真っ白な部屋で真っ白な神徒に尋ねた。

シャムは先からの笑顔を絶やさずに答える。

「うん?この部屋の存在意義は契約を終えた時点で無いからね?用済みになった部屋は崩壊するだけだよ?」

「崩壊?」

その何か不吉な単語の意味を求めた。シャムはその求めに軽い感じで答える。

「この部屋は元々ボクらがこうして生き物と対面するための場所として、生き物が死んだ瞬間にここは形成されるんだ?ボクとアサギは契約を結び終わったから・・・・・・・ほら?始まったよ?」

ばごん、と何かが砕けるような轟音が響く。

麻義は驚いて振り返る。その司会が捕らえたのは真っ白な空間に、ぽっかりと空いた虚無。宇宙を思わせるような漆黒がガラガラと崩壊音を立てながら広がっていく。

「うわっ・・・・・どうするんですか?このままでいくとあの黒いのに飲み込まれる気が」

「大丈夫だよ?このまま立っていれば元の世界に戻れるよ?」

「そんな事言われても不安な事に変わりは・・・・わっ!?」

崩壊は麻義の足元まで到達した。足場を失った麻義はさっきまで浮いていた浮遊感を失い落下する恐怖から、思わず目を閉じた。

「っ・・・!」

その直後、麻義は尻餅をついていた。

「・・・・・・へ?」

見覚えのある光景。そこは麻義が『生きていた』頃と寸分違わない麻義の部屋だった。

「へぇ?ここが麻義の生活してた所?ふぅん?」

と、シャムは物珍しそうに部屋を見回っている以外は。

「・・・・・・あのーシャム?なんでこんなところに出るんですか?僕は交差点で車に轢かれて死んだはずですが」

ふむふむと興味深そうに学習机のライトを付けたり消したりしているシャムはその行為を止めようともせず、声だけで返事をした。

「そんなの簡単だよ?ボクがアサギの部屋を見たいなーっって思ったから、ここに出たんだよ?」

「・・・・・・必要性が・・・・」

「僕が見たいだけだよ?理由なんてそれだけだよ?」

ただ純粋に、シャムは自分のパートナーとなった麻義の暮らしがどんなものか気になっただけのようだ。

子供のような思考。でも、だからこそ邪気を感じない。麻義は、裏表の無い彼を見て何故か安心できた。

「はぁ・・・・・・で、これからどうするんです?」

まだ忙しそうに部屋を見て回っているシャムに今後の方針を問う。

「んー?とりあえず周辺を見て回ろうかな?腰を落ち着ける場所も欲しいしね?」

「・・・・・・?ここじゃ駄目なんですか?」

麻義は長年親しんできた部屋を提示する。

しかしシャムは難しそうな顔になって言った。

「麻義は記憶を残していたいから死神になったんだよね?記憶だけならあんまり問題は無いけど、人間だった時の感覚だと・・・この先やっていけないよ?」

「あ・・・・・・」

もうここは自分の家ではない。
この世界に生きていた『吉良麻義』という人間の部屋だ。今此処にいる『吉良麻義』という死神のものではない。

「そうでした・・・・・・すみません、考えを改めます」

そう言って麻義は自分の考えの浅はかさを反省した。

シャムはすでに元の笑顔に戻っていた。

「ううん?それを忘れなければ大丈夫だよ?」

じゃ、いこうか?とシャムは窓から外に出た。

麻義もそれを追って外に出て


この部屋が3階にあることを思い出した。


「あっ」

滞空しながら『あ、この位なら死にはしないかな?』などと冷静な判断をした。

しかし体は死神になっていても重力には逆らえないようで、何の抵抗も出来ずに麻義は落下した。

ゴキッという鈍い音と共に地上に激突したと同時に肩に鋭い痛みが襲ってきた。

「――――!」

反射的に肩を押さえる。

シャムは慌てた様子で駆け寄ってきた。

「大丈夫?ごめんね?まだ何も説明してなかったね?」

シャムは、麻義が苦しそうに押さえている肩にそっと手を置き目を閉じた。

「うん・・・・・・まだ死神になったばかりだから・・・・・・霊化できないんだね・・・・・・なら肉体の損傷だけを・・・・・・」

痛みによって薄れていく意識の中で、麻義はシャムのそんな呟きを聞いていた。


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